みなさん、こんにちは。
早いもので今年もあと1週間となりました。
山﨑道場もたくさんの大会に出場してきましたが、22日の筑波大学少年柔道錬成大会と道場での稽古で今年の全日程を終了しました。門下生の皆さんはもちろん、保護者の方々もたいへんお疲れさまでした。
新年は4日から始動となりますので1年の中で最も長い休みとなります。自主トレをしたり今年出来た事出来なかった事を振り返り来年の目標を考えてみる事も大事だと思います。そして、風邪などひかないように気をつけて年明けにまた元気な姿を見せて欲しいですね。
さて、今日のテーマは『強さは優しさ 柔道から学んだこと』山口香先生講演会です。
令和元年12月7日(土)、埼玉県新座市のふるさと新座館で開催された『人権問題講演会』の中の講演でした。
山口先生は日本で女子柔道が試合を始めた頃のパイオニアです。第1回全日本女子柔道体重別選手権大会にて最年少で優勝、以降同大会10連覇。世界選手権では4個の銀メダル獲得のほか、1984年のウィーン大会において、日本女子として初の金メダル獲得という輝かしい実績をお持ちです。現在、筑波大学教授、日本オリンピック委員会理事、日本バレーボール協会理事、日本サッカー協会理事など、柔道のみならずスポーツ全般の普及・発展のために尽力されています。
私は、平成27年2月にも山口先生の講演を聴講させて頂いています(よろしかったら柔道ニュース第142号もご覧ください)。当時の話もそうでしたが、これまで多数の試合の解説やブログ等も強く印象に残っており、また機会があったら是非聞きたいと思っていました。
今回はじっくり1時間半講演を聴く事が出来ましたが、時間が経つのを忘れる程の充実した内容と話術は本当にすばらしいの一言だと思いました。
それでは、内容の一端をご紹介させて頂きます。
◆人権問題講演会(何故私がこの講演会に呼ばれたか)
来年、日本でオリンピック、パラリンピックが開催。世界中からたくさんの人々が来日されるにあたり、人権を考えるというテーマに少し角度を変えて自分なりの『柔道を通して学んだこと』や『子供たちに伝えていきたいこと』について話してみたい。
◆柔道を始めたきっかけ
・女だてらに
・女のくせに
今でこそこうした言葉は言ってはいけない言葉になっているが、私が柔道を始めた1970年頃は、まだ残っていた。
私が生まれたのは1964年、前回の東京オリンピックの年。この時に柔道は初めてオリンピック競技となった。この年のレコード大賞は美空ひばりさんの『柔』。
柔道を始めたきっかけは、テレビで見た『姿三四郎』(当時は主演竹脇無我氏)が大男を投げ飛ばすのを見て、また、精神力を鍛えるところに他のスポーツには無いモノを感じ、町道場に入門を希望したことから始まる。
しかしながら、当時は女子で柔道をしている子は無く、先生から他の習い事を勧められた。女の子だから、すぐにやめてしまうだろうとか、長く続かないという目で見られていた。入門の条件は「女の子だからといって特別扱いしないが大丈夫か」だった。
やり始めてみてどうだったか。
これが強かった。子供の頃は概ね女子の方が成長が早い。むしろ私に負けてやめていく男子が多かった。
◆女性スポーツの歴史
1896年に開催された初めてのオリンピックには女性は出場資格がなかった。
女性の役割は男性の勝者に冠を捧げることだった。
当時は女性スポーツが発達することは、女性らしさが失われ品位を下げるのではないかと言われていた(1904年の東京朝日新聞)時代だった。
振り返れば女性スポーツの歴史は女性への偏見との闘いだった。世界では、今でも女性であるという理由で教育が受けられなかったり、スポーツが出来なかったり、参政権が無かったりという所もある。
◆柔道から学んだ生き方
スポーツは自己表現。
自ら行動しなければ結果は出ない。
⇒待っていても勝てない。結果を出す為には自分がアクションを起こさなければならないという事を学んだ。
◆パイオニア
大学でも柔道部初の女子部員。先生から『お前の生き方が次に続く者の道となる』と教えられた。物事を選択する時に、続く選手のことを考えるようになった。
・物事を頼まれたら、可能性がゼロでない限りノーと言わない。
・苦手なことを引き受ける。下手な絵でもたくさん書けば上手くなる。
・発言を躊躇しない。自分の立ち位置、意見、行動の基準を明確にしておく。
⇒アクションを起こせばリアクションが起きる。でも結果を恐れない。様々な場面を想定した準備をしておく。スポーツで最も悔いの残る負けは、するべきことが出来なかった時。
⇒来年に訪日する外国人に対しても、日本人が一歩勇気を持って接してあげることが大事。
◆自然体
常に背筋を伸ばして姿勢良く立ち、人の後ろに隠れない。
⇒柔道で最も強い姿勢は自然体。
良い姿勢は良い技を生み、柔軟な対応が可能になる。
これは生き方にも通じる。
◆継承されるべき嘉納治五郎師範の柔道精神とオリンピズム
【柔道精神】
・精力善用
・自他共栄
⇒精力悪用、自己中心ではない。
【柔道の目的】
・自己の完成と世の補益
強くなった体と心を世のために使う。
【東京オリンピック招致】
当初はヨーロッパとアメリカ地区で開催しており、極東地区のアジアのような遠い所で行う発想は無かった。
嘉納師範はアジアやアフリカでも開催する事でスポーツが世界に広がり、引いては世界平和につながると説いた。
◆違いを尊重する
例えば男性と女性には違いがある。
男性女性だけでなく、個性と言い換えても良い。一人として同じ人間はいない。その違いを一人一人が尊重していく。
違いはマイナスでは無い。
だから自分の考えを誰かに押し付けるのではなく、折り合いをつけていくこと、話し合いをしていくことが大事。今までそうだったからこれからもそうでは進歩がない。
相手を理解する心遣いを一人一人が持てば皆が尊重される世界になる。
折り合いをつけるための手間やプロセスが重要。
やりたいと思うことに挑戦出来る世の中を作っていくことが大事。
こうした発想が後悔しない人生を歩むことにつながる。
2020年、オリンピック・パラリンピックが開催され、ホスト国として色々な人を出迎えることになる。
その時に、色々な人と触れ合う、色々な人を知ることで自分を見つめ直す、皆と一緒にやっていこうという気持ちを皆が持つことが、未来の日本を創っていく。
講演は概ね以上のような内容でした。山口先生は、女子柔道の先駆者として、それまでは男子ばかりだった世界の中で、今日の女子柔道発展を築き上げて来られました。きっと人に言えないご苦労もたくさんあった事と思います。今日の講演も実際にはこの何十倍もの話をされており、たくさんの事例も織り交ぜ、非常に興味深い内容でした。私の記述力、表現力の問題でほんの一端しかご紹介できていないのは残念ですが、ご了承ください。
今年もお世話になりました。
いよいよ来年は日本でオリンピック・パラリンピック開催の年です。競技としても世界最高峰のすばらしい試合を期待したいし、真夏の暑さは気になりますが、大会としても成功裏に終わり、日本で開催して良かったと評価されるように我々一人一人が出来る事に取り組んでいけたらと思います。
令和元年12月24日
【第189号】