みなさん、こんにちは。
今、柔道があらためて世の中の関心事となり、注目を集めています。それは『武道必修化』に起因するものです。そこで今回のテーマは、『武道必修化』とし、これを語る上で極めて重要な『受身(うけみ)』についてスポットをあてます。
まず、武道必修化について簡単に説明します。中学1、2年生の授業で武道(柔道、剣道、相撲)を取り入れる事が決定し、今年4月から開始される予定です。中でも柔道は、約6割の学校で採用される見込みだと報道されています。
決定されたのは安倍政権時代の平成18年で、まず教育基本法が改正されました。その後、平成20年に文部科学省が中学校学習指導要領を改訂、平成24年度からの導入が決まりました。法改正の検討・準備期間を考慮すると、かなり以前から検討され決定した事になります。
次に、今なぜ武道必修化、それも柔道がクローズアップされているかについてですが、まず柔道そのものが危険度が高いという指摘、加えて十分な経験を積んだ指導者が不足しているため、拍車をかけているという現状です。考え方は人それぞれ、色々あるとは思いますが、私自身の考えは、習熟度合いに応じてきちんと手順を踏めば、特に危険とは思いません。
私の中学時代も、2年時に2ケ月程度でしたが、体育の授業が柔道になりました。高校時代は週に1時間だけ格技の授業があり、柔道か剣道の選択でしたが、共に周りでケガをした生徒はいませんでした。
確かに柔道部員が手加減せずに投げたら、スピードや衝撃に受身の技術が追い付かず、ケガの可能性を否定はしませんが、誰もそんな無茶な事はしません。しっかり受身が取れるようにゆっくりきれいに投げますし、そもそも投げ込みや自由練習などは、最後の総まとめの時にほんの少しやった程度です。大部分は準備運動や補強運動、受身の練習に費やしました。短い限られた時間の中で、初心者対象に指導をする訳ですから、踏み込んだ内容はできません。
まして、これだけ騒がれているのですから、先生も『とにかくケガをさせない指導』を念頭に置いてご指導されると思います。
では、柔道を安全に行うために最も重要なことと言えば、真っ先に思い浮かぶのは、しっかり受身をマスターする事です。受身は、大切な頭部を守り、投げられた衝撃を腕や脚等の身体全体で受ける事で、衝撃を分散し、やわらげるものです。
山崎道場では、入門するとまずは礼法を教え、次に受身の練習をしっかりやります。特に、仰向けに寝た状態から首を上げ、後ろ受身の練習を繰返します。これは、受身の練習と共に首の強化をしています。柔道では、ケガ予防の点からも競技力向上の点からも、首の強化はとても重要だからです。
この体制のまま受身を続けると、初めのうちは首が痛くなりますが、段々首の筋肉が強化されてきます。寝た姿勢からの受身が出来たら、次は長座からの受身→蹲踞→中腰→立ち姿勢からの受身と発展していきます。併せて横受身や前方回転受身も同様に徐々に覚えて、投げられたとき自然と体が反応するように、体に覚えこませます。その後、実際に投げてもらって受身をとる実践練習となります。
受身を一通りマスターできたら、打ち込み等次のステップに進んでいきます。
大切なことは、習熟度合いに応じて段階的にする事だと思います。
最後になりましたが、相田みつを氏の詩をご紹介します。
相田氏は第79号の夏合宿で足利市を紹介した時に、足利市出身という事でご紹介しました。
受け身
柔道の基本は受身
受身とは投げ飛ばされる練習
人の前で叩きつけられる練習
人の前でころぶ練習
人の前で負ける練習です。
つまり、人の前で失敗をしたり 恥をさらす練習です。
自分のカッコの悪さを多くの人の前で
ぶざまにさらけ出す練習
それが受身です。
柔道の基本では
カッコよく勝つことを教えない
素直にころぶことを教える
いさぎよく負けることを教える
長い人生には
カッコよく勝つことよりも
ぶざまに負けたり
だらしなく恥をさらすことのほうが はるかに多いからです。
だから柔道では 始めに負け方を教える
しかも、本腰を入れて 負けることを教える
その代り
ころんでもすぐ起き上がる 負けてもすぐ立ち直る
それが受身の極意
極意が身につけば達人だ
若者よ 失敗を気にするな
負けるときにはさらりと負けるがいい
口惜しいときには「こんちくしょう!!」
と、正直に叫ぶがいい 弁解なんか一切するな
泣きたいときには 思いきり泣くがいい
やせ我慢などすることはない
その代り
スカッーと泣いて ケロリと止めるんだ
早くから勝つことを覚えるな
負けることをうんと学べ 恥をさらすことにうまくなれ
そして下積みや下働きの 苦しみをたっぷり体験することだ
体験したものは身につく
身についたものー それはほんものだ
若者よ
頭と体のやわらかいうちに 受身をうんと習っておけ
受身さえ身につけておけば
何回失敗しても
すぐ立ち直ることができるから・・・・・・
そして
負け方や受身の ほんとうに身についた人間が
世の中の悲しみや苦しみに耐えて
ひと(他人)の胸の痛みを 心の底から理解できる
やさしい暖かい人間になれるんです。
そういう悲しみに耐えた 暖かいこころの人間のことを
観音さま、仏さま、と 呼ぶんです。
みつを
この詩は、東京・有楽町にある相田みつを美術館にも掲示されています。
『仏さま』はともかく、非常に味わい深く、思わずなるほどなあと唸ってしまいますね。
平成24年2月21日
【第99号】