柔道ニュース 『形を持ってこだわらず』

新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 

この年末年始は天候にも恵まれ、2014年は穏やかにスタートを切りました。

スポーツの世界においても、ラグビー、サッカー、駅伝、ボクシング、スキー、バドミントンなどで大きな大会が開催され、熱戦が繰り広げられました。

各々の大会で選手達のひたむきな姿に胸を打たれるものがあり、スポーツの素晴らしさを再認識したように思いました。

皆さんの年末年始は如何でしたでしょうか?しっかり鍛えた人もそうでなかった人も、継続が大切ですので頑張ってください。

 

さて、今回のテーマは『形を持ってこだわらず』としました。

 

年末年始のテレビで、大相撲の横綱・白鵬関の特集番組がありました。

その中で、『後の先(ごのせん)』について、柔道の岡野功先生(現流通経済大師範)との対談シーンがありました。白鵬関が茨城県の流通経済大学に岡野先生を訪ねて稽古や対談をしたのですが、柔道を学ぶ上でも参考になる内容だと思いましたのでご紹介します。

 

後の先とは、相手が仕掛けてきた技に合わせて掛ける技のことです。一例を挙げますと『内股透かし』や『相手の大外刈りを切り返しての体落し』、『掬い投げ(現在は禁止)』等がこれに相当します。

 

岡野先生は現役時代170㌢80㌔程度の体格ながら体重無差別の全日本選手権で2度優勝、そのスピードと技のキレは今でも語り継がれているほどの高名な柔道家です。当欄でも第2号『美しい打込み』においてご紹介させて頂きました。白鵬関は『岡野先生のDVDを見てしびれました、そして今回の訪問を思いたちました』と語っています。

 

以下は岡野先生のコメントの概要です。

 

(中量級として東京オリンピックで優勝した後)体重無差別の全日本で優勝することを目標にし

た際、相手は大きい人たちがほとんどなので(どう対処するか)考えて工夫しました。

具体的には、独自のステップを踏みながら相手に先手を取らせて(相手に先に攻めさせておいて)変化

して勝つという『後の先(ごのせん)』を体得しました。

先の先(せんのせん)で攻めていく方法と後の先とのバランスが大切だと思います。

ただ待っていて相手に攻めさせたのでは、呼吸が一呼吸ずれれば自分がやられてしま

います。相手の出方を肌で感じて、目で確認するのではなく肌で

感じて体をさばく、一瞬早く体をさばく作業が必要です。

 

まずは形を持ちなさい。しかしながら、それにこだわっていたの

では一流とは言えません。相手の出方に応じて臨機応変、柔軟に対応できるようにするということ。後の先はここで言う臨機応変の範疇に入るのです。

 

書物からの引用ですが、好きな言葉に『形を持って形にこだわらないレベルに達した人を名人とか達人と言う』があります。

 

以上、岡野先生談

 

 

「形を持ってこだわらない」非常に深い言葉ですね。

一つ一つの技や組み手は一流レベルの域に達しているが、それにこだわることなく臨機応変に使い分けられるバリエーションを身に付けているということはまさに理想型だと思います。

また、岡野先生は相手の動きを目で見てから反応するのではなく、自然と体が反応するようになる重要性も強調されていました。その一瞬のスピードが取るか取られるかの境目になってしまうからです。そしてこうしたコツも、繰り返し繰り返し練習することで体得出来ることです。

 

余談ですが、岡野先生は69才にもかかわらず、技や体捌きが年齢を感じさせないすばらしいものだった事に驚きました。

 

最後に白鵬関の話に戻りますが、先日もここで書きました通り(第126号)、既に歴代屈指の記録を残している大横綱です。

にもかかわらず、更なる高みを求めて他種目の達人の所にまで訪問して歩く探求心は凄いと思いました。そもそも柔道関係者でも無いのに岡野先生の『バイタル柔道』を観ている事自体が驚きに価すると思います。

探求心だけでなく、昨年の九州場所で稀勢の里関に敗れた際に館内で巻き起こった万歳三唱の嵐にも、負けて騒がれるような力士(かつての大横綱である双葉山関が弟子に対して、目指すべき力士像と指導していた言葉)に自分もなってきたのではと語っていました。屈辱の敗戦にも、恨み言や泣き言は一言も無かった所に、この横綱の大横綱たる所以があるのではないかと思いました。私達日本人はこの横綱に学ぶべき所が多々あるように思います。

 

平成26年1月8日

【第128号】