柔道ニュース 『柔道グランドスラム東京2012』

みなさん、こんにちは。

今年もあと2週間あまりとなりました。
1年経つのが年々早くなっているように私は感じるのですが、皆さんは如何ですか?
山崎道場では、年内は残り寝技大会1試合で年納めとなります。今年最後の試合として、悔いのないよう精一杯取り組んでくれたらと願っています。

さて、今日のテーマは『柔道グランドスラム東京2012(最終日)』です。
11月30日(金)から12月2日(日)まで、東京の国立代々木競技場第一体育館にて開催されました。
『グランドスラム』は、数多い国際大会の中でもランクの高い大会であり、今年日本で開催される唯一の国際大会でもあります。
私は最終日に会場で観戦しました。会場の周りに植樹されている大きな銀杏の木々が見事に紅葉しており、朝陽に映えてとてもまぶしく選手や観客を出迎えてくれているように感じました。

最終日は、男子の90㌔級、100㌔級、100㌔超級と女子の78㌔級、78㌔超級の合わせて5階級が行われました。
エントリーは各階級とも各国2名まで、開催国の日本は4名まで出場可能です。
私見ですが、まず見どころからご紹介させて頂きます(敬称略)。

【90㌔級】
日本は、西山将士、加藤博剛、吉田優也、下和田翔平の4選手です。オリンピック銅メダルで世界ランク1位の西山。今年の全日本チャンピオン加藤。超級のオリンピック代表の上川に今年一本勝ちした吉田。192センチの長身、今年の全日本学生優勝、伸び盛りの下和田。
外国選手では、韓国の他、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタンといった旧ソ連勢が強豪選手を揃えています。なお、第一人者のイリアディス(ギリシャ)は100㌔級にエントリーしていました。

【100㌔級】
日本は、熊代祐輔、浅沼拓海、谷井大輝、小林大輔の4選手です。
オリンピック代表の穴井が引退、羽賀・高木もケガのために勇姿は見られず、少し寂しくも感じますが、講道館杯優勝の熊代、過去この大会の前身(嘉納治五郎杯)で優勝経験のある小林、共に大学2年の浅沼と谷井には若さ溢れる試合を期待しました。
外国勢では、何と言っても90㌔級の第一人者イリアディスが階級を上げて出場し、一つ上の階級での試合内容に注目しました。
加えて、外国選手とは言え日大柔道部出身のテムーレン(モンゴル)と現在1年在学中のレイズ(カナダ)の存在も気になります。

【100㌔超級】
日本は、上川大樹、七戸龍、百瀬優、王子谷剛志の4選手です。苦戦が予想されますが、日本開催&4人出場の強みを生かし表彰台を願いました。
外国勢では、第一人者のリネール(フランス)の勇姿は見られませんが、世界ランク2位でオリンピック銅メダルのシルバ(ブラジル)、同じく銅メダルで世界ランク4位のテルツァー(ドイツ)、世界ランク5位で、昨年のパリ世界選手権銅メダルのキム・ソンミン(韓国)らが参加。

【78㌔級】
日本選手は、緒形亜香里、佐藤瑠香、岡村智美、穴井さやかの4選手でした。オリンピック代表の緒形と講道館杯連覇の佐藤、年齢も22歳の緒形と1学年下で現在は20歳の佐藤、このライバル2人に注目しました。
残念ながら外国勢の強豪選手は少なく、それ故に二人の試合内容に期待しました。

【78㌔超級】
日本選手は、田知本愛、山部佳苗、白石のどか、朝比奈沙羅の4選手でした。オリンピック代表の杉本は引退し、代表落選の悔しさをぶつけたい田知本、今年の全日本チャンピオン山部、埼玉栄高校出身で講道館杯優勝の白石、まだ高校1年生ながら、全日本3位の朝比奈。杉本の後を担うニューフェイスに注目しました。外国勢は8選手と少数ながら、オリンピック金メダルのオルティス(キューバ)、世界ランク7位のアルツァーマン(ブラジル)が出場しており、日本選手との対戦に注目しました。

結果は以下の通りです。

〈男子〉

【90㌔級】
優勝 イ・ギュウォン(韓国)
2位 西山(新日鉄住金)
3位 下和田(日本体育大)
3位 ボズバエフ(カザフスタン)

西山が決勝に進みましたが、イ・ギュウォンの背負い投げに両手をついて防ごうとしたものの、最後は背中をつき無念の一本負け。加藤も同選手に押さえ込まれ、10秒で逃れましたが優勢負け。『寝技の加藤』が押さえ込まれたのは、驚きでした。国内では超級選手相手でもなかなか見られない光景かと思います。吉田は3回戦で敗退しましたが、緒戦で見せた払腰は、これぞ日本柔道というような鮮やかな一本でした。

【100㌔級】
優勝 小林(ALSOK)
2位 イリアディス(ギリシャ)
3位 テムーレン(モンゴル)
3位 ラコフ(カザフスタン)

小林が決勝に進み、強豪イリアディスから得意の内股一本勝ちで見事な優勝。本来1階級下の選手とは言え、イリアディスからの一本勝ちは会場内大いに湧きました。この時点で、90㌔級は決勝敗退、100㌔超級は決勝進出できずという状況でしたので、この日の日本男子唯一の金メダルとなりました。
熊代は3回戦で敗退しましたが、残り30秒まではポイントリードしていただけに残念です。

【100㌔超級】
優勝 キム・ソンミン(韓国)
2位 シルバ(ブラジル)
3位 七戸(九州電力)
3位 ボンバザン(フランス)
予想通り外国選手が一枚上という印象を受けました。
上川は緒戦勝ちましたが、2試合目で七戸に一本負け。王子谷も緒戦は勝ちましたが、シルバに一本負け。3位になった七戸もシルバには力の差を感じました。シルバと対戦したキムの試合内容と比べると、相当な覚悟で取り組まなければならないと感じました。

【78㌔級】
優勝 佐藤(コマツ)
2位 緒形(筑波大)
3位 コットン(カナダ)
3位 ユン(韓国)

順当に緒形と佐藤のライバル対決となりました。今回は佐藤に軍配が上がりましたが、力の差はほとんどなく、まだ2人とも若いので、今後の成長・対戦が楽しみです。

【78㌔超級】
優勝 田知本(ALSOK)
2位 オルティス(キューバ)
3位 朝比奈(渋谷教育学園渋谷)
3位 アルツァーマン(ブラジル)

田知本が決勝に進み、オルティスと対戦。結果はもつれたところを絞め技で一本勝ち。世界ランク1位でもオリンピック代表になれなかった鬱憤を晴らしての見事な優勝でした。
高校1年生の朝比奈もオルティスには一本負けしましたが、この大会で2回勝った事は、大きな自信になったのではないでしょうか。山部には緒戦を突破して田知本との対決を見たかったですね。

以上のような結果でした。
3日間をまとめると、男子は金4、銀3、銅5。女子は金6、銀5、銅3でした。
結果だけで判断すれば、今年のオリンピック等最近の国際大会と比べ、上々の成績かと思います。
しかしながら、これは以下のような状況も勘案して考える必要もあり、今回と同様の結果が今後も期待できる保証はありません。

①開催時期
オリンピック開催後ゆえに、引退やケガの治療に専念するなど、階級にもよりますが『グランドスラム』大会としては出場選手の顔ぶれ、人数ともにやや寂しい大会でした。

②地元開催
日本開催という事で、いわゆる『ホーム』の優位性。これは会場内だけでなく、長旅や時差、食事等の環境によるコンディショニングを意味します。

③複数人出場
地元日本は4人の選手が出場できました。今回の大会でもトップランクの選手が必ずしも優勝した訳ではなく、補欠で繰り上げ出場した選手が優勝したケースもありました。一人代表であるオリンピックに向けて、取り組まなければならない課題だと改めて感じました。

今回結果を出した選手、特に60㌔級の高藤(東海大1年)や73㌔級の大野(天理大3年。講道学舎出身。何年か前に出稽古に行かせて頂いた際にも、動きの良い選手との印象がありました)といった若いチャンピオンが誕生したことは、柔道界にとって明るい材料です。
今後ヨーロッパ各地で開催される国際大会、来年の世界選手権、そして4年後のオリンピックを目指して、選手と指導陣が一体となって強化に取り組み、努力に相応しい結果が出ることを是非期待したいと思います。

平成24年12月15日
【第112号】