柔道ニュース 『長い目でみる』

みなさん、こんにちは。

10月も半ばとなり、急に肌寒さを感じるようになってきました。季節の変わり目は体調も崩しがちです。気をつけてください。

 

おかげさまで、この柔道ニュースも今日で丸7年となりました。これも山﨑先生はじめ道場の皆様方のお陰と感謝申し上げます。

今年は山﨑道場も全柔連登録10周年の記念の年です。柔道ニュースも既に7年かと思うと感慨深いものがあります。最近は更新が少なくて申し訳ありませんが、これからも柔道ニュースをよろしくお願い申し上げます。

 

さて、今回は私が以前から是非道場の保護者のみなさんにご覧頂きたいと感じていた話をご紹介させて頂きます。

これは日本大学の柔道部監督でこの度全日本柔道連盟の強化委員長にご就任された金野潤先生が以前書かれた文章です。まずはご覧頂きたいと思います。

 

なお、掲載にあたっては金野先生にご承諾を頂戴しております。

 

 

長い目でみる

 

大学1年時、東京学生の団体戦での私の成績は1勝1分3敗。

負けの内訳は、送襟締での1敗と大外返しの2敗だった。

特に東海大との決勝戦で先鋒の私は、ただひたすらに大外刈だけをしかけ、見事に返されて一本負けを喫しチームも敗戦した。

一日のうちに二回も大外返で一本負けしてしまったのだ。試合後、意気消沈しながら監督に挨拶にいくと、でっかい手で頭を撫でられ、「それでいんだ!弱いお前がしっかりした大外かければ返される!いまのままでいけ」と笑顔で褒められた。

怒られると思っていた私は拍子抜けしたが「よし!積極的にいっていいんだ!自分で考えて柔道していいんだ!」と自信を持つ事ができた。

私はその後も大した競技成績は残せなかったが、その時の監督の言葉や表情で長く柔道競技をすることができたと今でも感謝している。

 

先日、尊敬している高校柔道の指導者とお話をする機会をいただいた。

話の中で、今の子供は投げられるのをすごく嫌がるということがでた。

確かに小学生や中学生と稽古をすると大人の私とやっても、組手をしぼり、切りまくる、返されないように体を開きながら技をかけたり、しゃがむような背負いをしかけるスタイルの選手が少なくない。だから、負けないけど、力がつかない。

これが先にいって伸びない子の原因の一つではないかという共通認識を得た。

昨今、小学生、中学生時代に指導者や保護者が勝ち負けに一喜一憂しすぎていることが前述した現象と関係があるのではないだろうか。

少年柔道の試合や稽古にいくと、負けた子に対し、激しく叱る指導者や親を見かける。叱らないまでも落胆した表情を子供に見せている大人達。そして、勝てば対戦相手がいるのにも関わらず、ヤンヤの大喝采を展開している。これでは、子供が「今勝たなければ」と思い込むのも仕方ない。

フランスのボルドー大学教授のミシェル・ブルース先生は講演の中でこう仰っていた。

「フランス柔道は少年期に試合を辞めました。国内でも沢山の反対意見もでたが、統計的にみても少年期に試合を多くする事が、シニアの競技成績にポジティブな効果を表さない事がわかったので試合を辞めました。」

競技人口でフランスは世界一、世界最強の柔道選手もフランス人という現況を鑑みても、日本柔道も見習う部分があるのではないだろうか。

一生懸命やっている子供の結果がでれば嬉しいし、でなければ落胆するのは人情であるし充分理解できる。されど、長期的視野からの声かけをするのが指導者の役割であるし、親の役割は遠くから見守ることではないだろうか。

恥をさらせば、私自身も親として恥ずかしい失敗をした。子供が初めて出た試合をビデオで撮りながら、単調な技をしかけて返されたのを見て「バカだなぁ、同じ事繰り返してるからだよ」とつぶやいていた。それがビデオにしっかり録音されていたのだ。それを聞いた時の子供の落胆した顔といったらなかった。その時のバカは間違いなく私自身であった。それからは、勝っても負けても表情にださないよう心がける事とした。

現在、中学生になった子供は決して強くはないが、柔道を続けてくれている。これは支えてくださっている周囲の方々のおかげであり、ただただ感謝しかない。

 

柔道の真の力がつくには時間がかかる。だからこそ、尊いと感じる。

我々大人は、子供と同じ目線は必要だが,同じ部分を見ていてはいけない。長い目でみなければならない。沢山の失敗を重ねてきた私のような浅はかな親であり、指導者にはことさらである。

 

長文をお読みいただきありがとうございました。

そして、柔道をしてくれている全ての子供達に感謝します。

 

 

以上が金野先生の文章です。

掲載を快くご承諾頂いた金野先生に改めて感謝申し上げます。

 

みなさんは、どんな感想をお持ちでしょうか。

きっと新たな『気付き』があったのではないでしょうか。

柔道においてもその他のことでも、お子さんとの接し方はそれぞれのご家庭で様々かとは思います。ご参考にして頂けたら幸いです。

 

平成28年10月14日

【第161号】