柔道ニュース 『世界柔道雑感』

みなさん、こんにちは。
世界選手権、堪能されましたか?

小生は初日の夜だけでしたが会場に足を運びました。やはり国内の大会とは一味違った独特の空気を感じました。柔道をこよなく愛する人々が、日本代表選手にエールを送るという目的で一つになれる場所であり、可能ならば期間中毎日、そして終日この場で応援したいと改めて感じた次第です。
今回は地元開催に加え出場選手が増えた事、何より日本人の活躍が大いに大会を盛り上げたと思います。
前提条件が違いますが、金10・銀4・銅9という素晴らしい結果で幕を閉じ、数もメダルの色も過去最高を記録しました。
詳しい結果はメディアで報道されているため割愛し、ここでは勝手ながら小生が感じた事を書かせて頂きます。

◆複数人出場
一番手以外の選手の活躍も目立ちました(敬称は略させて頂きます)。
杉本、浅見、西田、森下、上川、西山等の選手が金メダル始め大活躍でした。
一番手の陰にかくれ、マークされる度合いが低いため十分に研究されてない事、挑戦者として思い切って挑める事などが要因かと思います。『世界チャンピオン』の肩書は一生の栄誉であり、どんなに年月が経過しても、柔道史に延々と刻まれ続けます。だからこそ、これからの一戦一戦に真価が問われます。益々の活躍を期待したいです。

◆礼法
礼が甘い選手が多いと感じました。直接見た事例数が少ないので、他の日は違っていたかもしれませんが、『手が体から離れている』『きちんと静止しない』『頭を十分に下げない』『こぶしを握ったまま』等が目に付きました。礼法は相手を敬い感謝する気持ちの表現であり、トップに立つ柔道家としてもっと子供の手本になって欲しいという思いから残念に思いました。

◆試合場
試合場内を表す黄色い畳は32畳。両者が完全に場外に出るまでは試合続行というルールとは言え、50畳に慣れた目には、やはり狭く映ります。32畳は、50畳の試合場なら赤畳に囲まれた内側の青畳の広さです。特に重量級の試合を見たので、余計にそう感じたのかもしれません。

◆判定①
新しい国際規定での大会であり、判定にも注目していました。結論は、『以前と大きく変わっていない』という印象でした。
帯から下の攻撃に対する反則は、あまり取っていないように感じました。
また審判の判定において個人差が大きいという印象も強く持ちました。難しい問題ではありますが、反則を取る基準など、もう少し統一されないと選手が戸惑いますし、微妙な判定の時に無用な波紋を呼ぶと思います。
また、”かけ逃げ”がどこまで見極められているかや、寝技であからさまに場外に逃げた場合などの取り扱いも今後の課題だと感じました。

◆判定②
年々一本の判定が軽くなっているように思います。
久しぶりに20年前の試合のビデオを見たら、今なら一本という技が有効があるかどうか位でした。膝立ちの相手を倒して一本とか、一度尻餅をついた後で背中をついて一本というのは、昔の基準で育った世代には、やはり違和感があります。何より、有効や技有なら逆転もあり得ますが、一本では試合が終わります。フロック勝ちが増える事で興味が半減します。鈴木選手の内股のような、これぞ一本!という万人が納得する一本の技が見たいものです。

【特に印象に残った選手】

・穴井
初日の出場で後続選手への影響も多大である事、ランキング1位として相手から研究されている上に、金メダルの期待も大きかったので相当なプレッシャーを背負っていたと思います。そんな状況下でも、先鋒としての役目を十分に果たすと共に、去年の悔しさも晴らし非常に価値ある優勝だと思いました。
また、篠原監督を慕って練習拠点を東京に移す等師弟の絆の強さも随所に見られました。穴井の時だけは篠原監督も天理の先生の顔でした。テレビを見ただけでは伝わりきれない優勝の瞬間の独特な雰囲気を見届けられて、会場に来て良かったと思いました。

・杉本
塚田の陰で伸び伸びやれたとは言え、2階級制覇は見事です。また、初日の出来が特にすばらしく、まさに文句の付けようの無い内容でした。集中力と気合いが全身みなぎる、そんな感じでした。これからは第一人者としてプレッシャーもかかると思いますが、打ち勝って欲しいと思います。

・秋本
辛い時期を乗り越えての優勝だけにぐっと来るものがありました。
お父さんの現役時代を知っている者としては、お父さんの涙を見たら込み上げる物を押さえられませんでした。特に準決勝は、文字通り”手に汗握る”熱戦。テレビに向かって、身を乗り出して応援していました。また、最後は寝技の大切さを教えてくれました。このように寝技を活用する事で、上手に試合を組み立てられるんだというお手本のような試合だと感じました。また、決勝の試合終了後の態度も素晴らしかったと思います。

・西田
まさに崖っぷちに立った女性の”執念”を見た感じがしました。さすがに決勝の後半は疲れを見せましたが、試合開始早々の巴投で機先を制し、前半は流れを引き寄せていたと思います。
判定は微妙でしたが、このままロンドンまで2人で切磋琢磨し合い、世界と格段の差をつけて欲しいですね。

・鈴木
初日に惨敗し、篠原監督に直訴しての出場。試合前は今日で終わるかもしれないと思うと、涙が止まらなかったそうです。
そして選手生命を賭けて臨んだ試合では、勝った試合はオール一本勝ち。鈴木選手の入場の時は、一際拍手が大きかった事からも、優勝して欲しい、させてあげたいと念じた日本人は少なく無かったのでしょう。
また、準々決勝の内股は往年のキレ味でした。3位決定戦でも万全でなかったとはいえ高橋を敗った相手に勝ちましたし、【引退】の二文字はまだ封印して欲しいと思いました。

・リネール
全日本王者から2回も一本勝ち。無差別級こそ銀メダルでしたが、限りなく微妙な判定。2階級目、世界中から最もマークされ、更に日本人と3人続けて対戦するなどを考慮すると、やはり実力世界一はこの選手だと改めて認識せざるを得ませんでした。

他にもたくさん書きたい選手はいますが、割愛させて頂きます。

最後になりましたが、5日間本当に楽しませて頂きました。普段テレビで柔道の試合を見る事も無い家内や愚息が夢中になって見ている姿を初めて見ました(これは我が家では”ありえない”出来事です)。小生自身は、民放の宿命とはいえ、いくらなんでもコマーシャルが長過ぎだと呆れながらの観戦でしたが…。

熱戦を繰り広げてくれた全選手・そして大会関係者の皆様にあらためて感謝したいと思います。

22年9月16日
【第47号】